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女性が入りにくい「メイドキャバクラ」を女性目線でレポ

キャバクラといえば、キラキラのドレスを来た綺麗な女性たちが働く場所ですが、客としてはなかなか女性が行く機会のない場所ですよね。そのようないわば「男性のための場所」に女性ライターが潜入取材を行う『男しか行けない場所に女が行ってきました』からメイドキャバクラへの潜入の模様をご紹介します。

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目次

  1. ○女も行けるが男のための場所 メイドキャバクラ
     
    文・田房永子

     

    • 女も行けるが男のための場所 メイドキャバクラ

      取材のため、ライターの男性と編集者と3人でメイドキャバクラに行った。
      19時、新宿で待ち合わせ。お店まで歩いている間、ライターが編集者に言った。「さっき、別の仕事で打ち合わせしてたんですけどね、それが17時で終わっちゃって。2時間も余ってるし、汗流そうと思って流してきました」
      私はボーっとそれを聞いていて、「サウナでも行ってきたのかな」と思った。「『ふとっちょヘルス』に行ってね、ウエスト100センチのタカコさんに射精してもらいましたよ、ははは。タカコさんに抱きしめられたらなんか癒されました」とライターの人は言った。
      キャバクラに着き、ピンクのソファに3人並んで座った。私は以前SMキャバクラに取材に行ったことがあるだけで、キャバクラは2回目だった。お店の女の子は全員メイド服を着ている。店のスタッフに連れられて私たちのテーブルにふたりの女の子が来た。
      私と編集者の間に凛ちゃん(22歳)が座り、スタッフが「こちらはミコちゃんです」と言い「じゃ、あそこ座って」と指示を出した。もともと表情が固い感じのミコちゃん(20歳)は、静かに私とライターの間に座った。「座る」というより「置かれる」感じで、物みたいだなあと思った。自分たちの間に置かれた物の、ぷよっと出ている太ももは、いきなり無言でナデナデしても怒られないんじゃないかと錯覚した。
      普通のキャバ嬢風女の子がただメイド服を着ているだけの店かと思ったら、凛ちゃんは真性のオタク女性だった。凛ちゃんが好きなアニメや漫画の話を聞いても私は知っているものがまったくなく、「ほお~、そういうのがあるんですね~」というリアクションしかできなかった。
      凛ちゃんは喋り方がすごかった。常に右頬を右肩にくっつけている体勢で、右手を猫の手の形にし、ビートたけしのものまねのように動きまくって喋りまくる。「いやいや、夏は大変っ。私、夏バテするんで。夏バテするんで。夏バテするんでっっ」など、コメントを3度ずつ繰り返すのが癖のようだ。その間、上半身を上下に細かく揺らしながら前に倒す。一回の「夏バテするんで」の間に前に倒し、体を戻してからまた「夏バテするんで」で上下に揺れながら45度前のめりになるといった具合。はっきり言って強烈で、「どうしたの!? 大丈夫?」と心配になってしまうくらいのテンションの高さだった。普段からこういう人なのかな、とそればかり気になり、「いつもそうなの?」と何度も聞きそうになった。「きっと普段からこういう人なのだろう」と無理矢理思った。
      この店の客は、やはりアキバ系が多いという。客が歌うカラオケもアニソン中心で、店にある大型モニターにはアニメの映像が流れていた。私には知識も興味もないため、さっぱり分からない。
      しかし、彼女の話の中で唯一、親近感の沸く話題があった。
      凛ちゃんは、中学から「るろうに剣心」や「スラムダンク」が好きだったという。読んでいる漫画に対する自分の思いが、みんなとは異なっている、オタクに近い思考を持っていることに気づきながらも、「私はオタクではない」と自分に言い聞かせていたらしい。しかし、ある漫画を読んだとき、「やっぱり私はオタクなんだと開き直ったら楽になった」と言っていた。
      私は、小学生の頃から漫画家になりたいと強く思っていたが、中学に入ってからは、「漫画家になりたい人」のほとんどが「オタク」だったため、まったくついていけなかった。校内で少数派である「漫画家になりたい人」の中で私は「でもオタクではない」という意味でさらなる少数派であった。そこで校内に充満する「漫画を描く人=ダサい人」という認識に迎合し、「漫画家になりたい」という欲望を封印することで多数派に紛れ過ごした。それが20歳頃まで続いたが、いつのまにかなくなっていた。それは、凛ちゃんとは逆に「自分はオタクではない」とはっきり気づいたからだと思う。
      凛ちゃんは、店の中央にカラオケをセッティングし、アニソンを完璧な振り付けで歌って踊ってくれた。踊りがうまいし、スタイルもいいし、見ていてホレボレした。特に、黒いまっすぐなロングヘアーが横に揺れるのを見て、胸がキュンとなった。
      客もメイド服に着替えられるというので、私も着替えることにした。今回、取材で行ったのだが、お店には言わずに客として潜入したので、更衣室などを見るチャンスだった。
      更衣室はかなり狭く、部室のように乱雑に散らかっていて、女臭がした。
      凛ちゃんは、更衣室で他の女の子と普通に喋っていた。それは他のバイト先で見たら「アノ子、超オタクっぽいよね」と言われてしまう喋り方ではあるが、この店の女の子の中では至って普通で、「そりゃ日頃からあんなテンションなわけないよなあ」とホッとした。そして、座席では「物」にしか見えなかったミコちゃんも、ごちゃごちゃした更衣室から客用のメイド服を引っ張り出し、私に片手で渡してくれた。
      メイド服を着ている自分を鏡で見て、なんとも言えない気分になった。どうせなら写真を、そしてどうせ撮るなら萌えポーズで……と思い、教えてもらって写真を撮った。萌えポーズは、体をひねって、両手の全指をクロスさせて顔の前にもってくるやつと、床にペタンと座って、手を膝のとこに出して上目遣いでカメラを見るというもの。撮った写真は直視できなかった。
      再び席に戻りライターの隣に座ったミコちゃんは、アニメ声で、常に両手を顔面前でクロスさせながら話していた。店から出る際、ライターの胸元に付いたホコリを小指を立てた手で取りながら、困った顔をして「お洗濯、してくださいね~」と上目遣いで言った。ライターの顔を見るとデレデレの表情であった。会計は3人で2時間2万5千円だった。
      帰り、ライターが「田房さんの隣の子は、キツかったな~。ミコちゃんがいいな」と言った。編集者は「男にとってはやっぱ、ミコちゃんのほうがいいですよね」と言った。私は、媚び媚びタイプのミコちゃんよりも、自分が好きなものに突進している凛ちゃんのほうに好感を持った。しかし凛ちゃんもミコちゃんも、自身に相当な負荷をかけてあのテンションをキープしているんだ。更衣室のふたりを思い出すことで、目の前の男ふたりに抵抗した。
男しか行けない場所にが行ってきました

男しか行けない場所に女が行ってきました

田房永子

イースト・プレス

第1章 男しか行けない場所より

世の中(男社会)には驚愕(恐怖)スポットがいっぱい!エロ本の取材現場を「女目線」で覗いて気づいた「男社会」の真実。

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