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- ◯浅田家
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浅田家
溜池山王@東京メトロ銀座線 他東京メトロ「溜池山王」駅の9番口から正面を横切る六本木通りを右折してすぐの右折路をゆく。大通りから一本入った道はビルの谷間とあって目立つ店舗や看板などは少ない。その高層建築が取り囲む中で『浅田家』が行燈看板を静かに灯している。創業から百年余という。東京の中心でもニョキニョキとした建物がまだない時代からずっとこの町と共に育ち、見守ってきたわけだ。その歴史に裏打ちされた和菓子の技が一際であるのが「豆大福」である。その六〇ミリを超える大ぶりでこんもりした姿。表面にたくさん確認できる赤えんどうの雄姿。その姿はまるで子供の頃に使った理科室の分子模型を思わせる。豆の配列には何か特別な法則でもありそうだ。それ程に餅の上で赤えんどうは立派で、とても良く目立つ存在である。何しろ豆達は餅の中だけでなく表面にも盛り沢山だ。各々が一定の法則に乗っ取って、わざわざ埋め込んだ様にさえ見える。中と外との二層構造で、豆自体の色合いも相まって濃淡様々に輝かせて、それが独特の風貌を作り上げる。加えて、そこに施されている片栗粉の量が大変に少ない。一見すると豆大福に塗された量に思えない。弾みで付着してしまった位、ほんの気持ち程度の量である。それゆえ手に取っても胸元や脚に片栗粉がホロホロと降り積もる事がほとんどない。豆大福を食べる時によくある、お馴染みの白い崩落現象が起きないのだ。殊更に身構える事なく豆大福へかじり付く。大層分厚く嚙み応え抜群の餅が咀そしゃく嚼する力を跳ね返す。コシがあるのに水気は少なく粘着力も程々に保たれている。その結束力の強い剛性の餅に数多点在する赤えんどうがほんのり纏った塩味を漂わす。大量に押し寄せる大いなる存在感が頬をこすり舌の表面を押し返してくる。次々嚙み潰すとコリコリとしてしっかりした歯応えで餅の内と外で豪快に砕ける。その圧倒的な食感や歯応えはなかなか他で類を見ないだろう。分厚い餅と強かな豆の組み合わせで極めて硬派な豆餅と格闘を繰り広げる。殊に歯触りと嚙み応えが抜きん出ていてとても魅力的な食べ応えである。そこに豆の中から明確な塩気が滲み出し、舌を巻きこみ餅へと染み渡る。その剛の豆餅に包まれた餡子も控えめな水気が滑らかで、程良い粘度が舌を捕えてくる。小豆が染めた色合いの中で鮮やかな光沢を放つのは小豆の皮のみ。しっくりと落ち着いた艶消し仕様である。小豆の味や香りやクセ、全ての特長も濃厚に凝縮した一個のカタマリとなってドスンと力強い存在感がある。そして一度口内に入れば、たちまちに伸びて、広がって、そして喉を過ぎてゆく。その中で特に惹かれるのは、塩味も程良い赤えんどうという“仕様”だ。この餡子あってこその豆であると思い至るのだった。奥ゆかしく漂う塩気が豆から染み出す。濃縮された濃ゆい餡子には塩気が十分で豆本来に備わった風味を余さず放出して口中を漂い始める。威風堂々たる佇まいを放つ餡子と剛の豆餅が口内で相まみえる豆大福は赤坂という土地で百年超の老舗の代表格だ。粉落ちがなく手軽で取り回しも良い。重みと言い、大きさと言い、歯応えも嚙み応えも力強く嚙み締める事で顔の輪郭も引き締まるようにすら感じる。かつての花街から現代のビジネス街へと発展を見せる赤坂で今も昔も座の中心に陣取る、手土産の王道的存在として変わらぬ地位を築き続ける。一つ食べれば腹も落ち着くが、つい二つ目に手が伸びる。そして二つ目をじっくり味わえば、もう忘れ得ない老舗の伝統と技術が、口内から脳内へと伝わってゆく。●住所 東京都港区赤坂2-10-4
営業時間 9:00 ~ 20:00(売り切れ次第終了) 定休日 土・日・祝
東京豆大福五〇の覚書き
定番の赤より
庶民のスイーツ「豆大福」。ひとくちに豆大福と言っても、かたち、豆の種類、豆の位置など、実は千差万別。いま食べておくべき「東京の豆大福」をオールカラーで紹介。“マメに暮らして大きな福を招く”との願いを込めて、東京の豆大福に特化した初めてのガイドブック。ツキをまるごといただけますよ! 豆大福を食べてしあわせになろう!