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- ◯和菓子処 大角玉屋 本店
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和菓子処 大角玉屋 本店
曙橋@都営地下鉄新宿線都営地下鉄新宿線「曙橋」駅A2口から地上へ。右へ向けて道なりに進み、住吉街商工会あけぼのばし通りのアーチをくぐる。その商店街を徒歩約三分で『和菓子処 大角玉屋本店』に着く。看板商品は「いちご豆大福」である。世に数多ある“いちご大福”ならば普通の餅で包まれる事が常だが『大角玉屋』では豆餅で覆ってあるのだ。大福界の両雄である“いちご大福”と「豆大福」が夢の競演を果たす、何とも贅沢なお菓子だ。しかもつぶ餡とこし餡の両方が用意されている。区別を付けるためこし餡は淡い紅色つぶ餡は見慣れた白の餅で包まれている。確かに目を凝らして見ると淡い紅色に染まった餅がビニールの向こうに伺える。同様に白も包まれたビニールの中にみっちり納まっている。ビニールに「いちご豆大福」とあるが、外観からいちごの存在は見当らない。表面を覆い尽くす片栗粉の中には、しっかり黒い玉模様が見える。少しばかり大きいが外見は至って普通の豆大福である。大きな体躯(たいく)が示すとおりに指にはズシリと確かな荷重が掛かる。大きさは六〇ミリで厚みがある。しっかり包まれていたので四隅が出来て姿は四角に近い。表面の片栗粉は塗り固めたように貼り付き、概(おおむ)ね均等に「いちご豆大福」を覆っている。こし餡の餅を染める薄紅に片栗粉の白が鮮やかな対比を見せる。片やつぶ餡ではその白さで餅の色合いが淡い緑色に映える。その両方ともに、餅は肌理(きめ)細やかでしっとりした質感を湛えている。そこに赤えんどうが幾つも散らばって丸く小さな丘を作ることで薄墨色の陰影が浮かんで見える。餅と片栗粉を溶かした豆には光沢を帯びた水気が輝く。しかし餅の奥に沈んだ豆は見えても、やはりいちごの様子は窺(うかが)えない。ところが鼻を寄せるといちご豆大福の周囲には爽やかな香りが漂っている。摘(つ)まんでみるとハラハラ落ちる片栗粉、そして餅は柔らかく変容し優しく指先を包み込んでくれる。そっと力を入れると指先が硬い感触に衝突する。そこにいちごの存在を感じ取る。一口で唇に大量の片栗粉が貼り付き、餅はゆっくり伸ばされ餡子が中で押し退けられる感触の先で丸いカタマリに突き当たる。それこそを逃さぬ様に前歯で固定してそのままゆっくり力を込める。裂ける餅と流れる餡子を経て前歯が突き刺さると、そのまま真っ二つに分断する。遂にいちごが弾ける。溢れる勢いで果汁が口を満たせば際立った酸味が舌にスッと刺さる。押し寄せる果実の刺激はそのまま喉の奥へ反応を広げる。鼻腔に抜けたいちごの香りと相まって果汁に負けない潤いに満ち溢れる。もはや餅も餡子もタプタプと緩やかな食感となって、いちご果汁で揉まれた餅はさらに柔らかく伸ばされる。酸味を浴びた餡子はその甘さが際立ってくる。小豆の風味が濃いつぶ餡は粒立ちも良くしっかり甘い。サラリと伸び舌触りのこし餡は無邪気ないちごの酸味に対して落ち着いた風情で甘さはまろやかである。二種類の餡子にいちごは分け隔てなく豆の旨味を引き立ててくれる。そこに本来のお菓子の原点が果実である事を垣間見る喜びを感じる。ただし赤えんどうだけは揺るぎない存在感。硬めの種皮は周囲とは異なる質感を放っている。一度嚙み潰せば青味を帯びた野菜然とした甘さを持っていて豆大福といえる主張がある。当初はいちご大福と豆大福の競演と思っていた。だが食べてみればこれは共演だ。お互いが反発している訳ではない。双方が持てる能力をフルに発揮している。それを目の当たりにした観客は美味しさに歓喜するのである。それもこし餡とつぶ餡の二種共技だ。豆大福の本に敢えてこのいちご大福を記しておきたい所以である。●住所 東京都新宿区住吉町8-25
営業時間 9:00 ~ 19:30 定休日 無休
東京豆大福五〇の覚書き
個性的な色と形より
庶民のスイーツ「豆大福」。ひとくちに豆大福と言っても、かたち、豆の種類、豆の位置など、実は千差万別。いま食べておくべき「東京の豆大福」をオールカラーで紹介。“マメに暮らして大きな福を招く”との願いを込めて、東京の豆大福に特化した初めてのガイドブック。ツキをまるごといただけますよ! 豆大福を食べてしあわせになろう!