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- ◯御菓子司 瑞月院
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御菓子司 瑞月院
飯田橋@東京メトロ東西線 他東京メトロ東西線「飯田橋」駅A5口から出て目白通りを九段下方面へ向かう。飯田橋三丁目の交差点を越えて最初の左折路に入り、二つ目の右折路を進めばビルの合間に建つ一軒の和菓子店が『御菓子司 瑞月院』。個性溢れる「豆大福」を食べる事が出来る。品名は「東京塩豆大福 火乃塩 抹茶」という。聞けば伊豆諸島の最果て青ヶ島産“ひんぎゃの塩”だからこそ作り得た「東京塩豆大福」に、更に抹茶が加わった豆大福との事。その姿は全長約七〇ミリの形で筒型にこしらえられ、上から押しつぶされ平たくなっている。一見すると巨大な蕗(ふき)である。表面にはビッシリと片栗粉が貼り付いている。結束した小片が寄り集まり、更に重なりあって遂に餅をすっかりと覆い尽くす。そこに影が落ちて立体感を作り、魚燐(ぎょりん)に似た風合を醸し出す。表層は小さな起伏がなだらかに連なる。豆は見た目だけなら目立つ存在感の発露はない。いくつか豆が丸い姿を晒しているが、その上へも片栗粉は分厚く塗される。自然と窪みが出来る様は樹木に出来たコブや洞(うろ)を思わせる。総じて醸し出す雰囲気は柔らかな苔生がついた薪の様だ。そんな事を連想させるのは餅の色も大きな要因だろう。品名が「東京塩豆大福 火乃塩 抹茶」である。圧倒的な片栗粉の白の下からは萌黄色に染まった餅が顔を覗かせるのだ。肌理(きめ)細かく一切のムラがない。表層は濃密な萌黄色で満たされている。その翡翠(ひすい)の様な餅の上に純白に輝く片栗粉が乗る。さながら春の日本庭園に降り積もる春雪(しゅんせつ)である。それがビニールに納まり、箱庭的な趣で目の前にある。その丈夫なビニール袋を開ける。厚紙の台座を引き出し、寝そべる豆大福を外へ連れ出す。触れた指先をハリで満ちた弾力が押し返す。スルスル逃げる様な感触を取り押さえて横っ腹を摘(つ)まんで持ち上げる。その柔らかく窪む餅の下にクルンと丸い質感に触れた。今一度、「東京塩豆大福 火乃塩 抹茶」を横から眺めれば筒型の餅の中心には抹茶色の餡子が詰まっている。澱(よど)みのない滑らかな質感には十分な潤いが光沢を放つ。鮮やかに映える色味は、片栗粉を被り淡く霞む餅の緑と対比を成す。餅から餡子に至るまで抜かりなく抹茶に染まっている。たっぷりと口に含めば舌先に滑らかな感触の餡子が当たりグニャリ形を崩す。その途端に舌に伝わる味覚に抹茶の香りが一息に広がってゆく。後に甘さが追い付き、モコモコした優しい味わいが貼り付く。小豆の風味とは異なる肌理の粗い甘さが舌の上を駆け廻る。嚙み千切ろうと口をすぼめると唇は丸く硬い一団の感触に迎えられる。その感触ごと押し込んで分断する。口いっぱいに納まった所で歯をたて、サクリ餅が口の中で膨らみ隙間を埋め尽くす。あっと言う間に一面、抹茶の香りで溢れ返る。モグモグ顎を動せば動かす程に抹茶の香りが口角や鼻腔へと抜けてゆく。嚙み心地に粘り気は少なく米の香りや甘さは、抹茶の香りの遥か向こう側に密やかに窺うかがえる。押し出された餡子が舌に薄く伸される。仄(ほの)かな白いんげんの味わいがふわり沸いてくる。優しくも分厚い甘さが味覚を震わせ刺激し続ける。それが潤いを呼んで更に餡子を柔らかく、滑らかに仕立て上げる。身を隠していた丸い小粒、赤えんどうがコリコリ奥歯で弾ける。その時だけ口の中から抹茶が身を引く。だがすぐにまた抹茶色に染められ圧倒的な量感で香りを口の中へ満たしてゆくのだ。見た目からも想定された事であるがこれ程まで強固だとは思わなかった。抹茶の落ち着きを湛えた味わいからさらに現れる鮮烈な香りに幻惑される。あらゆる味わいが抹茶に導かれ、それを塩が引き立てた後に静かに終焉する。その存在感により、しばし「豆大福」である事を忘れるのは致し方ないだろう。●住所 東京都千代田区飯田橋3-2-10
営業時間 [月~金]9:30 ~ 19:30 [土・日・祝]10:00 ~ 18:00 定休日 無休
東京豆大福五〇の覚書き
個性的な色と形より
庶民のスイーツ「豆大福」。ひとくちに豆大福と言っても、かたち、豆の種類、豆の位置など、実は千差万別。いま食べておくべき「東京の豆大福」をオールカラーで紹介。“マメに暮らして大きな福を招く”との願いを込めて、東京の豆大福に特化した初めてのガイドブック。ツキをまるごといただけますよ! 豆大福を食べてしあわせになろう!