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- ◯和のかし 巡
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和のかし 巡
代々木上原@小田急小田原線 他小田急小田原線「代々木上原」駅の西口から出る。近年スタイリッシュな店舗が続々増え続ける駅前から井ノ頭通りへ向かう。代々木上原駅南交差点を渡ったら井ノ頭通りを左へ折れて渋谷方面へ進む。上原三丁目交差点に着いたら右に伸びる上原仲通り商店街に入る。道幅の狭い商店街を進み最初の左折路を過ぎると『和のかし 巡』が見えてくる。店舗は打ちっ放しの外壁で通りに面した白い横格子には小さな吊り下げ式看板が架けられている。店内は壁に木製の棚とカウンターが設置してある。棚には黒豆やもち玄米といった和菓子の原材料が並ぶ。中央のカウンターには木箱に収められた和菓子達が揃う。奥から現れたご店主のお話では、お菓子からは卵や乳製品や小麦を始め、白砂糖も極力排除されている。餡子も無農薬で自然栽培の小豆を血糖値を抑える桑の葉茶を用いて煮ているとの事。世にいうマクロビオティックを基調にした、とても身体に優しい和菓子であり、固い信念の基に営まれる和菓子店なのだ。雑穀の「豆大福」の包装には「福巡り」とある。中身はつぶ餡となめらか餡の二種類だ。なめらか餡とは皮ごと小豆を使ってこし餡のように仕上げた当店オリジナルの餡子との事だ。「福巡り」は黒い。表面には真っ白な片栗粉が分厚く塗されているのだが、その純白の輝きを凌駕して餅の穏やかな黒が顔を覗かせて「福巡り」を取り巻く。その黒を割ってヌメリと艶(つや)やかな輝きの豆がいる。手に取ると以外な重さがあり、シッカリした質感が指の腹にズシリと圧し掛かる。大きさは五六ミリ。こんもり盛り上がった半球体だ。直に見る餅の色合いは黒というよりは灰色に近い。色の正体は備長炭である。それが餅玄米に混ざり、独特な色合いとなる。ゴツゴツした質感に真っ白な片栗粉がコッテリ乗る。肌理(きめ)の粗い餅の上にヘラで擦り込んだ様な起伏になる。餅の表面には、小さな丸い粒が見える。潰されて寄り集まり、結束した餅の中で強かに残った粒である。黒や茶色がスパンコールの様だ。餅の中には大きな黒大豆がたっぷりと入っている。滑らかな曲線が餅を押し上げ、隆起させて輪郭を描く。無骨な風貌を飾り立てる宝石だ。そっと口に運ぶとモコッと弾む。唇に餅がしっとり馴染み出すと大小様々な感触が現れる。小さな玉砂利の様な粒に飛び石の様な大きな突起が加わる。前歯を突きたて、ゆっくり押し込むと餅がムチッと鳴る。溢れ出す素朴な香りが一瞬で口の中を席巻する。ネットリ柔らかな弾力で歯の間で伸び縮みを繰り返す。その度に小さな粒が現れては素朴な香りを残し消えてゆく。そこに小豆の香りが濃厚に折り重なる。密度が高くドッシリ重い風味が口を満たす。つぶ餡は小豆の全てを封じ込めていて脆い口当たりを披露しながらホロホロ崩れて舌に乗り、瞬く間に水気を取り込む。緩やかに伸び、濃縮された風味を解放する。なめらか餡も同様に優しい口当たりである。なめらか餡の名前は伊達ではない。フカフカと泡の様な口当たりは前代未聞だ。一般のこし餡よりも遥かに柔らかで、サラリと穏やかな舌触りである。そして双方とも、その甘さは素朴で優しい。玄米と小豆。改めて双方の存在を確かめて、ゆっくり優しく嚙み締める。素材さが重なり合い喉へと大きく広がる。これは米を使った餅にはない、本当に素朴な味わいである。そんな柔らかな舌触りで満たされながらまた軽い塩味の黒大豆を舌が口の中に満ちる穏やかな甘さを引き立てる。週末には限定餡の「福巡り」も売られ、そちらも売り切れ必至の人気ぶりだ。どの品も素朴ではあるが野趣ではない。現代人の激しく喧(やかま)しい味覚に疲れた身体に静かな甘さが嬉しく染みる。●住所 東京都渋谷区上原3-2-1
営業時間 10:30 ~ 18:00 定休日 月
東京豆大福五〇の覚書き
個性的な色と形より
庶民のスイーツ「豆大福」。ひとくちに豆大福と言っても、かたち、豆の種類、豆の位置など、実は千差万別。いま食べておくべき「東京の豆大福」をオールカラーで紹介。“マメに暮らして大きな福を招く”との願いを込めて、東京の豆大福に特化した初めてのガイドブック。ツキをまるごといただけますよ! 豆大福を食べてしあわせになろう!