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低炭水化物ダイエットの効果的なやり方と注意点【博士(医学)執筆】

近年定着しつつある、炭水化物抜きダイエットですが、炭水化物を減らすと体の中ではどのような変化が起きるのでしょうか。炭水化物抜きダイエットの基本的な方法から炭水化物の体内での役割、減少すると何が起こるかを、新潟大学名誉教授の著書からご紹介します。

岡田正彦(医学博士)

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目次

  1. ○低炭水化物ダイエットにもいろいろある
  2. ○炭水化物の仕事
  3. ○炭水化物が不足して起こること
  4. 糖尿病は低炭水化物ダイエットで治るのか
     
    • 低炭水化物ダイエットにもいろいろある

      低炭水化物ダイエットは、歴史が古いこともあって、少しずつ異なる方法がいろいろ提唱されてきました。まず炭水化物をどれくらい減らすのかによって、大きく2つに分けることができます。
      ひとつは、炭水化物の量を一日の推奨される摂取量の半分くらいに減らすという方法です。わかりやすく言えば主食の量を4分の1以下にする、ということです。この点は、あとで具体的に説明することにします。
      もうひとつは、推奨摂取量の1割くらいにしてしまうものです。炭水化物はさまざまな食材に含まれていてゼロにすることはできないため、事実上、ご飯やパンなどの主食はいっさいとらず、さらに副食も炭水化物の少ない食材で調理しなければなりません。欧米ではこれを「超低炭水化物ダイエット」と呼んでいます。
      どちらにしろ、炭水化物を減らしたことによるカロリーの不足分は、たんぱく質と脂肪で補うしかありません。三大栄養素をすべて同じ割合で減らすのであれば、それは低炭水化物ダイエットと呼ばないからです。
      欧米でよく知られた方法のひとつに、米国の心臓病専門医ロバート・アトキンス氏が考案した「アトキンス・ダイエット」があります。以下は、米国の公式ホームページに掲載されている方法の概要です(文献1)

      ①牛肉、豚肉、鶏肉、魚介類、卵、バター、植物オイル、チーズなどは何を食べてもよい

      ②ご飯、パン、パスタ、ポテト、スイーツなどは食べてはいけない

      ③以下の4段階に分けてダイエットを進める

      ▼第1段階(最初の2週間)

          炭水化物は野菜やナッツに含まれるものに限定し、かつ一日20グラム(たとえば中サイズのバナナ1本分)とする。

      ▼第2段階(体質に合わせたバランス確認の時期)

          体重が減り続けていれば、果物、野菜、ヨーグルト、トマトなどに含まれる炭水化物を少し増やしてもよい。

      ▼第3段階(微調整の時期)

          目標体重まであと4~5㎏になった時点で、体重減少が維持される範囲で果物、根菜、小麦、コメなどを少し増やしてもよい。

      ▼第4段階(維持期)

          リバウンドがない範囲で炭水化物を増やすなどして、自分なりに永続できる食事パターンを確立する。

      この方法には改訂版もあるようですが、どちらも商品として登録されているため、あまり深入りはしないことにします。日本国内のホームページでよく見かける記事は、ほとんどがアトキンス・ダイエットを模したもののようです。
    • 炭水化物の仕事

      次に、炭水化物が栄養素として体の中でどんな働きをしているのか、考えてみましょう。
      食品中の炭水化物は、おもに「でんぷん」や「グリコーゲン」となっています。どちらもテレビコマーシャルなどでおなじみの言葉ではないでしょうか。炭水化物を口にすると、体内のさまざまな酵素によってそれぞれ分解が繰り返され、最終的にぶどう糖と、その他の糖(果糖など)になり、腸から吸収され血液中に入っていきます。
      ぶどう糖は、ほとんどの生物で共通のエネルギー源となっています。
      理由は2つあります。ひとつは、ぶどう糖がエネルギーに変わるまでの仕組みが比較的単純であること、もうひとつは形状が安定していて、途中で無関係の物質と反応したりしないようになっているからです。
      そのぶどう糖の濃度を測った数値が、健康診断でもおなじみの「血糖値」です。この値が高すぎれば糖尿病となり、逆に急速に低下すると、冷や汗などの症状が現れ、失神したり、時には死にいたることさえあります。
      血液中のぶどう糖は、とくに脳にとって主要なエネルギー源であるため、つねに一定の濃度を保っておく必要があります。一日に必要なぶどう糖の量は、成人の脳だけで120グラムほど、全身で消費する分を合わせると160グラムほどになります。一方、濃縮されたぶどう糖(グリコーゲン)が肝臓や筋肉に蓄えられていて、普通に食事をしているかぎり190グラムくらいになっています。
      いずれにしても、この蓄積量はごくわずかであり、かつ脳などでおもに消費されるものですから、日常の活動のため、あるいはスポーツなどをするためのエネルギー源にはなりえません。そのため、皮下や内臓周囲に蓄えられた中性脂肪を、酵素の手を借りて分解しエネルギーに変えるという仕組みが備わっていて、普段から少しずつ働いています。
      この仕組みは、炭水化物と中性脂肪がバランスよく存在しているとき、もっとも効率よく働くようにできていることから、
      脂肪は炭水化物の炎の中でよく燃える
      と専門家は表現しています。この点が、正しいダイエット法を考えるうえできわめて大切ですから、ぜひ記憶に留めておいてください。
    • 炭水化物が不足して起こること

      もし1~2日以上にわたって炭水化物をまったくとらないか、あるいは絶食(断食)をしたりすると、体内に蓄えられているグリコーゲンは、たちまち枯渇してしまいます。すると、中性脂肪の分解が加速され、ぶどう糖と「ケトン体」という物質に変わるという反応が起こります(文献2)。後者は、第二のエネルギー源とも呼ばれていて、ぶどう糖が極端に不足した状態で活躍する物質です。
      つまり極端な低炭水化物ダイエットをすると、ケトン体という(聞きなれない)物質が増えてしまうのです。この物質は、重い糖尿病を患ったときにも血液中に増加することから、私が医学生だったころ「血液を酸性に変えてしまう危ない物質」と習った記憶があります。実際、そのように思い込んでいる医師も多いようです。
      なぜ、ここで「糖尿病」の名が出てくるのかといえば、糖分を利用できなくなる病気であることから、炭水化物をまったくとらない状況とよく似ているからです。
      しかし重い糖尿病の場合と、低炭水化物ダイエットの場合とでは、さまざまなホルモンや酵素の動きが異なっています。結論をいえば、低炭水化物ダイエットで生じる量のケトン体は、必要なエネルギー源であって、危険な物質でありません(文献2)。この点は、低炭水化物ダイエットを推奨している人たちの主張のひとつ「低炭水化物ダイエットで血液中のケトン体が増えても問題はない」は、正しいと言えそうです。

      参考文献

      1 Atkins 20 diet plan – how does it work? https://www.atkins.com/how-it-works/atkins-20.

      2 Anaesthesia MCQ – Anaesthesia education site. http://www.anaesthesiamcq.com/default.php.

    • 糖尿病は低炭水化物ダイエットで治るのか

      炭水化物と糖尿病とは切っても切れない関係にあります。
      炭水化物は、食べたあと体内でぶどう糖に変化して血液中を流れ、細胞の中に取り込まれてエネルギー源となります。ぶどう糖をエネルギー源として全身の細胞が利用するには、インスリンというホルモンの助けが必須です。このホルモンの分泌量が減ってしまうか、または効き目が低下してしまうと血糖値が上がってしまい、糖尿病と診断されることになります。
      そのインスリンの働きは多彩です。血液中のぶどう糖が細胞に取り込まれるのを助ける他に、グリコーゲンの合成を促したり、肝臓から分泌されるぶどう糖をストップさせたりすることで、血糖値の微妙なコントロールを行なっています。そのため糖尿病になると、血液中のぶどう糖が利用できなくなってしまうことから、結果的に低炭水化物ダイエットを行なった場合とよく似た状況になるのです。
      糖尿病になった人が低炭水化物ダイエットをするとどうなるか、を調べた研究が無数にありますが、食事と病気との関係を調べるのはなかなか難しいものです。実際、炭水化物を減らした分、脂肪を増やしたのか、たんぱく質を増やしたのかが明示されていなかったり、あるいは糖尿病薬の服用の有無や運動の実施状況など、重要な情報があいまいだったりと、著しく信頼性を損ねた研究が多いように思われます。
      つい最近、信頼性が比較的高いと思われる論文がひとつ発表されました(文献1)
      この研究では、糖尿病があり、肥満にも悩む971人をボランティアとして募り、年齢、性別、病歴、検査値などに偏りが出ないようコンピューターで2つのグループに分け、それぞれ以下のような食事を続けてもらいました。

      【グループA 低炭水化物ダイエット】

      総カロリー―→必要カロリーの30%減

      炭水化物 ―→14%

      たんぱく質―→28%

      脂肪   ―→58%

      【グループB 普通食ダイエット】

      総カロリー―→必要カロリーの30%減

      炭水化物 ―→53%

      たんぱく質―→17%

      脂肪   ―→30%

      A、Bのどちらのグループも総カロリーは同じですが、やせることが目的ですから、それぞれ必要カロリーの30%ほど少なめにしてありました。また、「飽和脂肪酸」は10%以下に抑えました。
      参加者は、最初の4カ月間、2週ごとに栄養士の指導を受けることと、週3日ずつ60分間の運動を指導員のもとでするという条件も課せられました。これほどまでに厳格に行なわれる学術調査はきわめてまれで、信頼性もそれだけ高いと考えてよいでしょう。
      さて1年後、体重の減少は両グループで差が認められず、血糖値などの検査データにも差は認められませんでした。かろうじて差があったのは、糖尿病治療薬の用量を少しだけ減らせたことと、善玉コレステロールと中性脂肪の2つの検査値が改善したことだけでした。
      さらに問題なのは、あまりに厳しい制約があったため、1年後に調査に残っていた人が、971人中わずか78人しかいなかったことです。チャレンジした人の10分の1以下しかやり遂げることができないようなダイエットでは、実用上の意味がないのではないでしょうか。論文では、「低炭水化物ダイエットは糖尿病の治療に効果的」と結論されましたが、これはあきらかに言いすぎです。
      つまり、低炭水化物ダイエットが糖尿病の治療に有効であることを示す確固たる証拠は、いまのところ存在しないことになります。

      参考文献

      1 Tay J, et al., Comparison of low- and high-carbohydrate diets for type 2 diabetes management: a randomized trial. Am J Clin Nutr 102: 780-790, 2015.

話題のダイエットを格付けしたら・・・

岡田正彦

三五館

第2章 低炭水化物ダイエットをどう格付けするかより

本書は、世界中の学術情報にもとづいて、各種ダイエット法を格付けしたものです。最高に優れていれば10点、最低にだめなものは1点です。6点以上あれば試みる価値があり、5点以下はやらないほうがましと解釈してください。評価のポイントは、「健康に悪影響はないか」「長続きできるか」、そして「やせられるか」の3つです。(「はじめに」より)

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