目次
- ○脂肪を増やしても大丈夫か?
- ○たんぱく質を増やしても大丈夫か?
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脂肪を増やしても大丈夫か?
われわれの体内に蓄えられているエネルギーは、体重70㎏の男性を例にとると、
▼中性脂肪 ―→10万キロカロリー
▼たんぱく質 ―→2万4000キロカロリー
▼グリコーゲン―→600キロカロリー
という割合になっています(文献1)。
中性脂肪は、他の2つの栄養素に比べるとグラム当たりのカロリーが圧倒的に高く、もし同じ量のエネルギーをグリコーゲン(ぶどう糖を濃縮したもの)だけで蓄えなければならなくなったとすると、体重が64㎏も余計に増えてしまう計算になります。つまり保存用のエネルギー源としては、脂肪をおいて他にないのです。では、炭水化物を減らした分のエネルギー不足を補うために、脂肪の摂取量を大幅に増やすとどうなるでしょうか。米国の学会は昔から、低炭水化物ダイエットとは逆の「高炭水化物、低脂肪」ダイエットを推奨してきました。昔から学会が勧告してきたにもかかわらず、巷で低炭水化物ダイエットが流行を繰り返している現状に対し、研究者たちは「コレステロールや飽和脂肪酸を多く含む動物性の食品をたくさん食べることになり、結果的に心筋梗塞が増える」と警告を発しています(文献2)。 -
たんぱく質を増やしても大丈夫か?
次に、脂肪の代わりにたんぱく質を増やすとどうなるのかをみておきます。この点を検証した研究も多数あり、米国のある研究者は、その中から厳選した20の研究データをまとめて集計し、結果を医学専門誌に報告しています(文献3)。「低炭水化物、高たんぱく質」ダイエットを試してもらったのは、すべて糖尿病の患者さんたちでした。ダイエットの実施期間はデータによってそれぞれ異なり、短いもので6カ月、長いもので4年となっていました。集計の結果、体重の減少は認められず、糖尿病の血液検査値がひとつ改善していただけだったそうです。集計を行なった研究者は、「低炭水化物、高たんぱく質ダイエットは、糖尿病患者にとって有用な方法」と結論していました。しかし、この論文は、たんぱく質を大量にとることのリスクについてはなにも触れておらず、肥満も解消されず、かつ検査値がひとつ改善したことを示しただけの、きわめて不完全なものでした。当然のごとく、この論文に対しては、痛烈な反論記事が同じ学術誌の翌月号に掲載されました(文献4)。反論の主旨は、たんぱく質をとりすぎると、動脈硬化症が悪化し、心筋梗塞が増えることを示すデータがすでに多数発表されているにもかかわらず、そのことに触れていないのはアンフェアだ、というものでした。2012年、米国、ギリシャ、スウェーデンなどの研究者チームは、高たんぱく質ダイエットの是非の確認をするため大規模な調査を行ない、その結果を発表しました(文献5)。対象は4万人を超える中年の女性たちで、追跡期間は15年にも及びました。結果は、「炭水化物を20グラム減らしたうえで、たんぱく質を増やしていくと、その量が5グラム増えるごとに、心筋梗塞と脳卒中を合わせた発病率が5%ずつ高まる」という驚くべきものでした。炭水化物を減らし、その分のカロリー不足を脂肪とたんぱく質で補うのはきわめて危険、というのが私の結論です。
参考文献
1 Berg JM, et al., Biochemistry, 8th Ed. WH Freeman and Company, New York, 2015.
2 Halton TL, et al., Low-carbohydrate-diet score and the risk of coronary heart disease in women. New Engl J Med 355: 1991-2002, 2006.
3 Ajala O, et al., Systematic review and meta-analysis of different dietary approaches to the management of type 2 diabetes. Am J Clin Nutr 97: 505-516, 2013.
4 Pawlak R, Low-carbohydrate, high-protein diets for management of type 2 diabetes. Am J Clin Nutr 98: 247-248, 2013.
5 Lagiou P, et al., Low carbohydrate-high protein diet and incidence of cardiovascular diseases in Swedish women: prospective cohort study. BMJ 344: e4026, 2012.
話題のダイエットを格付けしたら・・・
第2章 低炭水化物ダイエットをどう格付けするかより
本書は、世界中の学術情報にもとづいて、各種ダイエット法を格付けしたものです。最高に優れていれば10点、最低にだめなものは1点です。6点以上あれば試みる価値があり、5点以下はやらないほうがましと解釈してください。評価のポイントは、「健康に悪影響はないか」「長続きできるか」、そして「やせられるか」の3つです。(「はじめに」より)