○○だけダイエットをやめる
「先生を目の前にして言うのも申し訳ないんだけど、りんごを毎日食べると医者いらずって言うじゃない?だから毎日食べるようにしてみたの」
診察室でこのようにおっしゃる方がおられます。
この「りんご」は、ときに「きな粉」にすり替わったり、はたまた「ヨーグルト」、「玄米」、「きのこ」、「豆乳」、「牛乳」など……本当にさまざまです。
食欲がすごいのか、健康への欲求がすごいのか……とにかくいろいろな食品が体によいと言われ、食卓に並びます。そして、「この食品はダイエットに効く!」と常に新しい発見が生まれ続けています。たとえば最近では、「牛乳には脂肪を燃焼させる成分が入っている。だからダイエットにいい」と発表され、一時期、新聞などでも話題になったものです。
たしかに牛乳の成分を分析すると、脂肪を燃焼させる成分が入っているのだそうです。
ただし、よくよく考えてみるべきです。自然界の食品というのは、非常にうまくできたもので、さまざまな成分がバランスよく含まれています。
この牛乳について考えてみると、そもそも、牛乳は誰が飲むものかというと、本来は牛の赤ちゃんです。赤ちゃん牛は体が未熟なわけですから、早く体を育てたい、つまり牛乳には牛の赤ちゃんが育つための成分がたくさん入っています。骨や筋肉、内臓も含めて、体を大きく、効率よく成長させるエッセンスが凝縮されているのです。
一方、人間のお母さんは子どもが充分に育つまで、そんなに長い期間母乳が出るわけではありません。だから、人間は子どもを育てる過程で「牛乳(牛の母乳)」を分けてもらい、自分自身の子どもに与えるというわけです。
では、私たち大人にとってはどうでしょうか。牛乳は、栄養価が高く、簡単に摂ることができるという点では素晴らしい食品です。
ただし、体を維持するのが第一の目標となる大人にとってはやや過剰な栄養素も含まれているのも事実。特に脂肪はやや多い食品でしょう。ですから、もともと脂肪分が多い牛乳に脂肪を効率よく燃焼させる成分が入っているのは不思議ではなく、理にかなったこととも言えるのです。
私たちはつい、ものごとのある1点だけを見て「これは体にいい」「これは体に悪い」などと判断しがちです。
牛乳を「カルシウムを多く含む食品」と考えれば、「骨こつ粗そ鬆しょう症しょうに効く食品」となりますし、「脂肪分が多い」ことを考えると「ダイエットには向かない食品」、「脂肪を燃やす成分が入っている」ことに注目すれば、「ダイエットに効く食品」とも言えなくもない。と、そんな話をすると、「結局、牛乳は体にいいの?悪いの?どっちなの!?」という声も聞こえてきそうです。診察室でも、
「牛乳って飲まないほうがいいの?よくないって言うなら、もうきっぱり飲まないから。ハッキリしてください、先生!」
こんなふうにおっしゃる方が多いのです。体に悪いと言われればやめて、体にいいと聞くと、そればかりを徹底的に摂ろうとしてしまいます。
たしかに、「いい・悪い」とものごとに白黒ついていると気持ちが楽なものです。
しかし、牛乳にしても何にしても、毒というわけではないのですから一口飲んでどうかなってしまうわけではないのです。たまたま今日の朝、パンと一緒に牛乳をコップ1杯飲んだとして、いきなり何キロ太るという話ではありません。
平安〜江戸時代の上流階級の人々は「脚かっけ気」になることが多かったと言われていますが、それは白いご飯ばかり食べていたことで、ビタミンB1が不足したからだという話があります。
結論から言えば、栄養はバランスよくが基本。
体にいい・悪いで食品を分けて、体にいいものをたくさん摂り入れようとする、悪いものを摂らないようにする、という意識をいったんストップしましょう。
お肉も、野菜も、炭水化物も、ほどほどに摂っていくべきものなのです。
ほかにも「◯◯だけダイエット」には、寝るだけ、もむだけ、たたくだけ……など、さまざまな○○がありますね。きっとみなさん「そんなおいしい話があるわけない」と思いつつも、「そうだったらいいなぁ」という夢や希望を感じながら、実践されているのではないでしょうか。
ただ残念ながら、○○だけで上手にやせられる方法はないと考えるべきかと思います。