目次
- ○発達障害をもつ子どもへの家庭での接し方の基本
-
発達障害をもつ子どもへの家庭での接し方の基本
広汎性発達障害の子どもに対して、家庭ではどんな点に気をつけて接するといいのか、基本的な考え方を紹介していきましょう。広汎性発達障害の子どもは、指示をすんなりと理解したり、器用にこなすことが苦手です。また、成功したという体験やほめられる体験を重ねる機会が少なく、「私(ぼく)はできるんだ」という自信が育ちにくく、劣等感が強くなりがちです。ですから、家庭では子どもが成功する機会を増やせるようにしてください。そして子どもの行いを、なるべくポジティブに受け止めてあげましょう。以下は家庭での接し方の6つのポイントです。①感情的に叱らない②いけない行動は無視する③いい行動ができたときには必ずほめる④いけない行動をコントロールしたり、いい行動ができたら目に見える形で評価する⑤行動目標は具体的に小刻みに⑥親は安定したぶれのない対応をする日々の暮らしのなかで、つい叱りたくなることもあると思います。けれども、激しい口調できつく怒鳴ったり体罰を加えても、それで子どもの行動を直すことはできません。子どもの行動には必ず原因となっている出来事があります。それを見極めましょう。たとえば、公園でお友だちと一緒に過ごしているときに、お子さんが急に友だちにおもちゃを投げつけ、大声で泣き出してしまったとします。お母さんはあわてて「何やっているの!○○ちゃんにぶつかったらどうするの!仲良く遊べないならもう帰るわよ!」と言い、子どもの手を引っ張って無理矢理その場から離れさせようとすると、子どもはますますひどく泣いて興奮してしまいました。このときの子どもの行動を3つに分けて考えます。❶公園で友だちと一緒に遊んでいる❷子どもが友だちに対しておもちゃを投げ出して大声で泣き出す❸お母さんにひどく怒られてその場から引き離されるこの過程のうち、❶が「きっかけ、または手がかり」、❷が「行動」、❸が「結果または対応」と考えてください。つまり、❷の行動を考えるとき、その前後の過程を考えることが重要です。具体的には❶で一見静かに一緒に遊んでいるように見えていたけれど、何か子どもが怒りだすきっかけがあったのかも知れません。友だちが使っている遊具を使いたかったのかも知れません。また❸の結果については、もし別の方法をとることができたら、叱って引き離すのではなく、穏やかに興奮をしずめるように声をかけられたかも知れません。そして「遊具をほかの子が使っていたら『使わせてね』と頼もうね」「おもちゃを投げるのはよそうね」と話し、子どもに具体的にどうしたらよかったかを教えてあげるのです。このように、行動の前後の状況を分析し、効果的な関わりを考えて行動をより望ましい方向に変えて行こうとするアプローチを応用行動分析(AappliedBehaviorAnalysis;以下、ABAと省略)と呼びます。このABAの考え方は、広汎性発達障害の子どもの療育で活用されています。頭ごなしに叱って終わりでは、その行動への振り返りをその後の子どもの対人交流スキルの改善に役立てることができません。また子どもはただ怒られたのでは、自信をなくすだけになってしまいます。ABAの基本的な考え方は、間違った行動をくり返させずに、正しい行動を伸ばすというものです。間違った行動については無視して(取りあわない、リアクションしない)、正しく望ましい行動ができたときには、「ほめたり、ごほうびを与える」という流れが基本です。子どもにはうまくいったという成功体験を積ませ、少しずつ自信を身につけさせる働きかけが大切です。このため、目標はシンプルでハードルが高すぎないものにすることが必要です。
子どもの発達障害 家族応援ブック
「うちの子、理解されにくいかも……」「うちの子、学校になじめないかも……」。言葉としてはよく知られるようになった「発達障害」。ただ、障害の詳しい特性や、望ましい接し方、「療育」など支援の仕方など、肝心なことはまだまだ十分知られているとは言えません。大切なことは、周囲の方が「発達障害」について正しい知識を持ち、早いうちに子どもが抱えている困難感を理解して、その子が持っている伸びる力を発揮できるようサポートしてあげることです。本書は、発達障害を持つ子どもが、すこやかに成長し、将来自立していけるように、発達障害の基礎知識、療育や支援の受け方など、実践的で役立つ情報を児童精神科医師がやさしく解説し家族を応援します