目次
- ○ケトン体が健康を守ってくれる
- ○ケトン体は運動時にもエネルギー源になる
- ○中強度の運動まではケトン体でパフォーマンス向上
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ケトン体が健康を守ってくれる
糖質制限をすると脂質から代謝される「ケトン体」が増えて、エネルギー源として使われるようになります。すると、体脂肪燃焼によるダイエット効果がアップします。ケトン体については何度か触れましたが、糖質制限とケトン体には深い関わりがありますから、ここでさらに詳しく紹介したいと思います。ケトン体とは、「ケトン基」を持つ化合物のこと。医学と生化学の世界では、「β(ベータ)-ヒドロキシ酪酸」「アセト酪酸」「アセトン」の3つをケトン体として総称してきました。このうちβ-ヒドロキシ酪酸はケトン基を持たないため、化学構造上はケトン体ではありませんが、酸化還元反応でアセト酢酸に転換されるため、ケトン体として扱われます。がんや動脈硬化といった生活習慣病の引き金のひとつは、有害な活性酸素による酸化ですが、ケトン体のなかでもβ-ヒドロキシ酪酸には抗酸化作用があります。活性酸素の害を防ぐために人体には抗酸化酵素が備わっています。β-ヒドロキシ酪酸は、この抗酸化酵素の活性を引き上げてくれるのです。すでに触れたように脳はケトン体もエネルギー源にしていますが、脳を守っている血液脳関門を通過して、脳の神経細胞のエネルギー源となっているのは、このβ-ヒドロキシ酪酸なのです。そして、神経細胞を養うケトン体は、認知機能の維持に関わります。さらに、がん予防にも威力を発揮する可能性があります。ケトン体が増える「ケトン食」でがんが縮小することもわかっています。がんの大好物は糖質であり、ほかの正常な細胞と違ってがんはケトン体を上手に使うことができないのです。 -
ケトン体は運動時にもエネルギー源になる
運動には糖質が欠かせないといわれます。マラソン、ロードバイク、トレイルランニングといった長時間の有酸素運動の前に、体内(筋肉と肝臓)の糖質(グリコーゲン)量を増やす「カーボローディング」を行う選手が多くいます。しかし、実のところ体内に貯蔵できるグリコーゲンを多少増やしても五十歩百歩。なぜなら長時間の有酸素運動は、糖質中心ではなく、「脂肪酸+ケトン体」が中心のエネルギー代謝に頼っているからです。運動の主要なエネルギー源は糖質と脂質であり、両者は常に同時に使われます。もっとも、糖質は酸素があってもなくてもエネルギー源になりますが、脂質(脂肪酸+ケトン体)は酸素がないとエネルギー源になりません。糖質は全身を巡る血液中に血糖として5g(血糖値100㎎/dl、体重65㎏のときの概算)、そして筋肉と肝臓にグリコーゲンとして300gほどしか蓄えられません。糖質は1g当たり4kaclですから、全部合わせても1200kcal程度しか蓄えられないということです。フルマラソン1回分の消費エネルギーはおよそ2700kcal(体重65㎏の場合の概算)ですから、仮に糖質だけを使ったとするとその半分にも満たないわけです。一方、脂質は体脂肪として数十㎏も蓄えられます。体重65㎏で体脂肪率20%なら貯蔵量は13㎏もあります。脂質は1g当たり9kaclですから、体内に11万7000kcal分のエネルギーを蓄えている計算になるのです。仮に脂質(脂肪酸+ケトン体)だけを使ったとするとフルマラソンを43回以上完走できる分だけ蓄えているということです。それだけに体は脂質をメインのエネルギー源にしているわけです。マラソンやトレイルランニングなどの有酸素運動の大半は、息が切れない程度の中等度の強度の運動で、しっかりと呼吸をしながら走ります。100m走のように呼吸をあまりせず、短時間で高強度を保つ無酸素運動とは違います。有酸素運動で高強度になるのはゴール直前のラストスパートのみ。ここでは息が切れてもOKなので糖質(グリコーゲン+ブドウ糖)を酸素なしでエネルギーに変えているのです。中強度の運動で脂質(脂肪酸+ケトン体)を利用すると糖質(ブドウ糖とグリコーゲン)の節約になります。そこで節約したブドウ糖とグリコーゲンをラストスパートで有効に使い切れば、ライバルを抜き去ってゴールできるというわけです。 -
中強度の運動まではケトン体でパフォーマンス向上
オフロードサイクリング選手のパフォーマンスに及ぼす、ケトン食(糖質制限食)の長期的な効果を検証した研究があります。被験者は8人の男性アスリート。年齢は28・3±3・9歳で、いずれもオフロードサイクリングのトレーニング経験が5年間以上ある選手。実験では8人に低糖質&高脂質のケトン食と混合食(高糖質食)をそれぞれ1カ月間食べてもらいました。エネルギー産生栄養素バランスは、ケトン食が「糖質15%、脂質70%、たんぱく質15%」、混合食が「糖質50%、脂質30%、たんぱく質20%」。この研究のケトン食は糖質15%ですから、高雄病院のスーパー糖質制限食の糖質12%に近いといえます。ケトン食を1カ月間食べた直後と、混合食を1カ月間食べた直後、それぞれにさまざまな強度でサイクルエルゴメーター(固定式自転車を使って体力やトレーニング効果を測定するマシン)をこいでもらった結果、安静時および低〜中強度の運動においてはケトン食のほうがパフォーマンスは高く、筋肉のダメージも少ないという結果が出ました。高強度の運動だけは混合食のほうが高いパフォーマンスを発揮しましたが、これはケトン食(≒スーパー糖質制限食)では筋肉に蓄えた糖質(グリコーゲン)の量がやや少なくなるため、無酸素状態の高強度の運動能力がやや低下するからでしょう。スーパー糖質制限食が向いていない高強度の運動の例としては、100m走があります。同様に、重量挙げのように重たいバーベルを一気に持ち上げることを繰り返す競技も向いていません。筋力トレーニングに関しては、スーパー糖質制限食がまったく役に立たないわけではなく、適度に筋肉がついた細マッチョを目指す通常レベルの筋トレであれば中強度の運動で済みますから、脂質(脂肪酸+ケトン体)中心のエネルギー消費でトレーニングをすることができます。スーパー糖質制限食では筋肉の原材料となるたんぱく質を肉類や魚介類などからしっかりとりますから、質の高い筋肉が得られるはずです。
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