目次
- ○腸の病気とダイエットの関係
-
腸の病気とダイエットの関係
低炭水化物ダイエットを推奨している人たちは、この方法で病気の多くも治ると言っています。この点を確かめるため、まずダイエットと「腸」との関係をみておきたいと思います。腸は、ほとんどの栄養素を消化・吸収する場所であり、正しいダイエット法を理解するうえで大切だからです。腸管の内側には1000種類を超える「腸内細菌」が住み着いていて、食べたものを分解する手助けや、食品中の病原菌、毒物などから身を守るための役割を果たしています。これら細菌のバランスがなんらかの原因でくずれてしまうと、下痢や便秘の原因となり、時には肥満やメタボリック症候群の引き金にもなるとされています(文献10)。ケガ、手術、抜歯などのあと、細菌感染を抑えるために「抗生物質」という薬がしばしば使われます。この薬は、本来、病原菌を退治するために使われるものですが、腸内細菌の一部も死滅させてしまうことになります。そのため薬を飲んだあと、やはり下痢をしたり便秘になったりと、抗生物質の「副作用」として知られる症状に悩まされることがあります。時には、この副作用が幸いし、腸内細菌のバランスが好ましい方向に変わり、体調がむしろ良くなったという患者さんもいたりします。一方、腸の粘膜細胞は粘液をたえず分泌していて、腸管の内側を保護する役割を担っています。腸内細菌は、これら粘膜細胞や粘液といっしょになって一種の「バリア(防護膜)」を形成しています。バリアは、食物中の病原菌や毒物を解毒しブロックする働きもしていますが、同時に一度吸収した栄養分が腸管内に漏れ出ないようにもしています。バリアの機能が弱れば、腸内の毒物が血液に吸収されてしまいますし、血液中の栄養素が腸内に漏れ出てしまったりすることになり、どちらにしても重大な健康障害をきたすことになります。このような状態は、専門的には「腸管の透過性亢進(とうかせいこうしん)」と呼ばれます。原因はいろいろで、大ケガをしたとき、大きな手術を受けたあと、感染症で重症になったときなどにも生じます。腸管の透過性亢進は、生まれつきの体質や病気によって起こることもあり、「過敏性腸症候群」や「潰瘍性大腸炎」などの病気がその代表です。小麦粉で作られた食品によって症状が悪化するという病気も知られています。最近、これらの状態をまとめて呼ぶ言葉がよく使われるようになりました。「腸管壁浸漏症候群」、または英語をそのまま日本語にした「リーキーガット症候群」です(文献1)。ただし、正式な医学用語ではなく、ダイエットに絡めて使われる一種の流行語です。ではダイエットと腸とは、どのような関係にあるのでしょうか。一説によれば、高脂肪で、かつ砂糖のように高純度に精製された炭水化物の多い食事がリーキーガット症候群の発病を促したり、症状を悪化させたりするとされています。炭水化物をとりすぎるだけで、リーキーガット症候群を悪化させるというデータもあります。そのため、パンや砂糖を控えれば、腸の健康が回復できるという、低炭水化物ダイエットを推進する人たちの言い分につながっているようです。またリーキーガット症候群の女性を対象に、普通の食事を2週間続けてもらったあと、4週間にわたって炭水化物を一日必要カロリーのわずか4%に制限した食事をしてもらったところ、あきらかに症状が改善したとのデータもあります(文献2)。しかし、より長期にわたって低炭水化物ダイエットの効果を調べた研究は存在せず、どの話も著しく信頼性を欠いているように思われます。つまり低炭水化物ダイエットが(小麦によって誘発される病気は別にして)一般的な腸の病気を治す力があるかどうかは、いまのところ不明なのです。
参考文献
1 Michielan A, et al., Intestinal permeability in inflammatory bowel disease: pathogenesis, clinical evaluation, and therapy of leaky gut. Mediators Inflamm 628157, 2015.
2 Austin GL, et al., A very low-carbohydrate diet improves symptoms and quality of life in diarrheapredominant irritable bowel syndrome. Clin Gastroenterol Hepatol 7: 706-708, 2009.
話題のダイエットを格付けしたら・・・
第2章 低炭水化物ダイエットをどう格付けするかより
本書は、世界中の学術情報にもとづいて、各種ダイエット法を格付けしたものです。最高に優れていれば10点、最低にだめなものは1点です。6点以上あれば試みる価値があり、5点以下はやらないほうがましと解釈してください。評価のポイントは、「健康に悪影響はないか」「長続きできるか」、そして「やせられるか」の3つです。(「はじめに」より)