うまくいっている人間関係に目を向ける
私たちは、他人との関わりなしに生きていくことはできません。そして、私たちが感じる幸福やつらさは、いつも、誰か他の人との関係に大きく左右されます。
家庭や職場での人間関係が順調だと思えれば、気持ちにハリが出てきますし、逆にそれがうまくいっていないと思えば、つらい気分になります。
何が幸福で、何をつらいと思うかは、人それぞれで違いますが、人間関係ほどそれに影響を与えるものはありません。
他の人から認められたり必要にされたりすると、私たちは満足して充実した気持ちになります。逆に自分の存在を否定されると、つらい気持ちになります。
とくに、いろいろ悩んでいるようなときには、人の支えがふだんにも増して大きな意味をもたらします。
ある会社で営業部に配属された女性は、顧客の一人に悩まされていました。女性というだけで見下したような態度をとり、ちょっとした手違いやミスを見つけては、激しい勢いで怒るのです。
訪問したときはもちろん、電話口でも怒鳴るように話をされるので、その女性はしだいに食欲がなくなり、夜も眠れなくなってしまいました。
幸いなことに、彼女の職場の環境はとてもあたたかく、お互いに支え合うような雰囲気がありました。電話で怒られるときはたしかにつらいのですが、そのあとで仲間が相談にのり、一緒に対処法を考えてくれました。そして、最終的には、その顧客の担当を上司がかわってくれることになり、気持ちがずいぶん軽くなりました。
このように、職場でも学校でも、仲間の支えがあると、つらい体験に耐えることができます。
それは、自分の存在に意味が与えられるからです。
仲間から自分の存在が認められるという体験は、自分を取り戻す体験でもあります。
たとえ、顧客の一人から全否定されるような扱いを受けたと感じたとしても、そのことを話せる同僚や上司がいるというだけで、自分を取り戻すことができます。
こうした体験は、言葉だけでなく、雰囲気からも感じとることができます。
直接言葉で伝えられなくても、自分が認められている、受け入れられているという雰囲気を感じとれれば、それほど落ちこむことはありません。
ある人とうまくいかなくても、他の人とうまくいくことはよくあります。
社外の人とうまくいかなくても、職場での人間関係で、こころが癒やされることがあります。また、職場での人間関係がつらくても、家族や友人との関係に支えられることがあります。
人間関係で傷つくようなことがあったとしても、それにこころを痛めるだけではなく、それを癒やすような人間関係にも目を向けるようにすることが大切です。