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セーラームーンの魅力から学ぶ女子の働き方

かつて一世を風靡したTVアニメ「セーラームーン」。セーラー戦士に熱狂した女の子は今アラサー世代に差し掛かり、仕事でも重要なポジションを任されることが増えたのではないでしょうか?
中学生が主人公だった「セーラームーン」には実は仕事観がしっかり描かれていました!
オトナになって見るととっても深い「セーラームーン」の“働き方”をご紹介します♡

稲田豊史

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目次

  1. ○セーラームーン世代の「女子」を忘れない働き方
  2. ・最前線で活躍する女子
  3. ・戦いの最中でも「オンナノコ」を忘れない
  4. ・価値観を乗り越え成果を出せるセーラームーン世代
  5. ・男性優位社会への大きな不満
  6. ○セーラームーン世代とゆとり世代
  7. ・肩身の狭いゆとり世代
  8. ・セーラーチーム、それぞれの夢への向きあい方
     
    • セーラームーン世代の「女子」を忘れない働き方

    • 最前線で活躍する女子
      チーム力を発揮してのミッション遂行や、相反する利益追求体である敵組織との対峙など、セーラーチームの活躍を「会社での業務」に読み替えることはじゅうぶんに可能だ。セーラームーン世代が幼いころに刷り込まれた「セーラーチームから学んだ仕事術」が、現在の行動規範の一部になっていてもおかしくはない。
      2015年現在のセーラームーン世代は28歳前後なので、そろそろ責任あるプロジェクトを任される年次である。ちなみに2013年夏、女性向け転職情報誌「とらばーゆ」のCMに「ムーンライト伝説」が起用された。セーラームーン世代も就職して数年、そろそろ「転職を考える年齢」なのである。
      まず大前提として、『セーラームーン』という作品が「女子〈だけ〉がバトルする作品」である点は、セーラームーン世代の仕事観を推し量る上でとても重要である。
      セーラー戦士たちは、スーパー戦隊のピンク担当のような「男性中心部署におけるマスコット的女子社員」でもなければ、SF映画などにおける司令室のレーダー担当クルーといった後方支援要員でもない。世界の存亡を賭け、各自が直接手を下すことで敵を殲滅する、最前線の実働部隊である。
      うさぎたちの活躍を毎週のように見て育ったセーラームーン世代にとって、女子が最前線で働くことは、特別な英雄的行動でもなんでもなく、あくまでデフォルト。セーラームーン世代よりも上の団塊ジュニアやバブル世代のように、「男には負けない」ことが前線を志向する理由ではないのだ。彼女たちは「対抗心」ではなく、「自立心」に根ざした前線志向の持ち主なのである。
    • 戦いの最中でも「オンナノコ」を忘れない
      激しいバトルを繰り返しながらも、「オンナノコ性」を絶対に捨てないのもセーラー戦士たちの信条だ。世界の存亡を目前にしたミーティングでも、恋バナやお菓子の争奪は欠かせない。まことは第41話「もう恋から逃げない! 亜美と衛対決」で「正義の味方だって、恋ぐらいしてもいいじゃない!」と口にするし、タキシード仮面も第63話「女は強く美しく! レイの新必殺技」で「強くなるために鍛えるのもよいが、優雅さだけは失わないでほしいものだな」と(偉そうに)たれている。
      そもそもセーラー戦士のバトルスーツは女子の象徴・セーラー服風のセクシー仕立て。「女を捨てねば男に(仕事で)対抗できない!」的な、一部世代のノイローゼじみた強迫観念とは、当然ながら一切無縁であり、通勤ファッションや仕事で使う文房具に至るまで「女子性」をキープしようとするのは、セーラームーン世代の好ましき美点であろう。
      セーラー戦士たちの仕事観は、彼女たちの言動の端々にも現れている。第29話「大混戦! グチャグチャ恋の四角関係」でまことは、彼氏が止めたからと留学をやめようとする女性を叱る。
      第62話「戦士の友情! さよなら亜美ちゃん」では亜美がアメリカに留学することになり、うさぎは激しく抵抗するが、レイは「私たちの子供っぽい独占欲で亜美ちゃんを縛るわけにはいかない」と、快く送り出そうとする。個人の自己実現に水を差すことは、セーラームーン世代にとってもっとも恥ずべき行為なのだ。ここでは友情と馴れあいがはっきり区別されている。
    • 価値観を乗り越え成果を出せるセーラームーン世代
      ちなみに、セーラーチームの5人は小学校時代からの友達同士、いわゆる同小(おなしょう)ではない――という設定も重要だ。彼女たちは〈前世からの宿命〉という、通常納得しがたい外部要因によって、強引にユニットを組まされているだけである。ゆえに5人は、趣味も性格も偏差値もまったく異なっており、通っている中学校は3つにまたがっている。にもかかわらず、「敵を殲滅する同志」というたった1つの旗印をもとに、結束するのだ。
      この柔軟性がセーラームーン世代の美点―だとすれば、第三者によって突然編成されたプロジェクトチームで結果を出さねばというとき、彼女たちはきっとその真価を発揮してくれるだろう。
    • 男性優位社会への大きな不満
      月野うさぎと恋人関係にあるタキシード仮面こと地場衛の〈業務遂行上の〉役割も興味深いところだ。彼はセーラームーンたちのピンチにたびたび訪れてはバラを投げて敵の攻撃を寸断し、セーラームーンたちを救うが、敵にとどめを刺したことは一度もない。タキシード仮面は敵をうっすら邪魔するだけであり、直接攻撃によってダメージを与えるのはいつもセーラー戦士たち。常に「今だ! セーラームーン!」とセーラームーンにフィニッシュを譲っている。
      このようにセーラームーン世代は、毎週のように、歳上の男を差し置いて華麗にミッションを遂行する女子だけの編成チームを眺めてきた。男性を立てる会社がまだまだ日本に多いなか、「私がフィニッシュを決めたい」と不満顔のセーラームーン世代は、実に多いのではなかろうか。
      なお、劇中のタキシード仮面(地場衛)は一応「王子様」扱いで、困ったときの助け舟役を担ってはいるが、洗脳されてセーラームーンに助けられたり、お告げのような夢に悩まされてうさぎに妙な態度を取ってしまったりと、回を追うごとに面倒くさい繊細さ、悪く言えば「ここ一番の頼りなさ」が目につきはじめる(それを優しく包み込むべく、回を追うごとに表出してくるのが、第4章で後述するうさぎの母性だ)。
      衛は結局のところ、「守ってやっている」はずのセーラームーンに依存している。
      セーラームーン世代は普段から男性上司に「いざというときには俺がいないとな」と思い込ませ、うまいこと手綱を引いて動かす術に長けているのかもしれない。
    • セーラームーン世代とゆとり世代

    • 肩身の狭いゆとり世代
      ところで、「仕事中(戦闘中)も自分らしさ(オンナノコ性)を捨てない」「自己実現を優先」は、いわゆる「ゆとり世代」の特徴とも近い。たしかに、本書で設定しているセーラームーン世代(1982~93年生まれ)の下半分は、一般に定義される「ゆとり世代」(1987~96年生まれ)とかぶっている。
      「ゆとり世代」は特に職場において、年長世代からの激しいバッシングに遭っているが、第2章でも触れたように、能書きだけでなく「結果」を出すのがセーラーチームだ。オンナノコ性を捨てない戦闘でも必ず敵に勝利し、自己実現を大切にしながら、ミッションもきっちりこなす。セーラームーン世代の後半はゆとり世代かもしれないが、必ずしもゆとり世代の短所を体現しているとは言えない。
    • セーラーチーム、それぞれの夢への向きあい方
      むしろ「ゆとり世代」的なるものをレイが糾弾する話もある。第152話「炎の情熱! マーズ怒りの超必殺技」だ。
      レイは将来の夢の1つが「キャリアウーマン」なだけあって、セーラーチームの5人のなかではもっとも仕事観に一家言あるが、巫女に憧れてレイの家である火川神社にやってきた少女のことを、「夢がないからって神社に逃げ込んでるだけ」と手厳しく評する。この少女は「本当はレイと同じでキャリアウーマンになりたいが、どうせ無理」と最初から諦め、レイのファンとして彼女の近くに居続けてレイのコピーを演じることで、偽りの自己実現を果たそうとする、やけにリアルな病理の持ち主。むしろこちらの少女が「ゆとり世代のダメなところ」の体現者に近い。
      第114話「アイドル大好き! 悩めるミメット」では美奈子の仕事観がよく出ている。美奈子の夢は芸能界でスポットライトを浴びること。人気男性アイドルと映画で共演できる公開オーディションに応募し、最終選考まで歩を進めたにもかかわらず、所属組織の目的(人類を守ること)を優先させて、自らの個人的な夢を一時凍結するのだ。ここにおいて、美奈子は自己実現を諦めているわけではない。ことの優先度を熟慮したのである。
      「本当の自分探し」はゆとり世代の特徴であり、他世代からの格好の嘲笑材料ではある。だが、優先すべきものを優先しつつも、自己実現を諦めないでそっと胸にしのばせるのは、いわば「エリートゆとり世代」とでも呼ぶべきセーラームーン世代の長所として、じゅうぶんカウントできそうだ。
セーラームーン世代の社会論

セーラームーン世代の社会論

稲田豊史

すばる舎

第3章より

『セーラームーン』に登場した敵の主張には、セーラームーンたちの「正義」が隠れており、さらにセーラーチームの日常は、現在のアラサー女子の仕事観や、女性観などに多大な影響を及ぼしています。また、月野うさぎを分析すれば、セーラームーン世代の恋愛観までもが浮き彫りに……。「『セーラームーン』ってこんなに深かったの!?」と思わずにはいられない読み応えたっぷりの1冊!

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