目次
- ○病院で行われる「あいまいな食事指導」
- ○誰もが実践すべき「共通の原則」
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病院で行われる「あいまいな食事指導」
ある病院が行っている「食事指導」の内容を見て、首をかしげたことがある。「食事はいつもバランスよく取りましょう」
「食事はゆっくり時間をかけて食べましょう」
「間食は上手に取りましょう」
「消化しやすい食品を取り入れましょう」これらはもっともなことです。もっともなことなのですが、正直、がん患者はもちろん、誰もがわかっていること。それぞれの項目について、ひとことアドバイスはあるものの、いずれも学校で習った栄養教育的な範疇(はんちゅう)を出ていない。「食事はゆっくり時間をかけて食べることで、消化吸収が良くなります」などといわれても、正直「いまさら」感が強い。しかも、どうもあいまいな感じがしてならない。「明日からの食事をどのようにすればいいのか」、具体的なことがここからは何もわかりません。結局、食事の方向性がわからないのだから、食事のバランスやカロリーを一生けんめいに考えたとしても長つづきしません。「1日30種類の食品を食べよう」などというのもよく見かけますが、「1日30種類」なんて実際、3食の献立をきちんと立てて、相当品数を増やしてやっとそろうほど。これでは長つづきするわけがありません。長つづきしないのなら、食事は意味がない。食事は3、4日つづければ効果が出るというものではありません。1ヶ月、半年、1年と継続させ、からだの土台をつくり変えるものです。
がん患者さん、とくに女性の患者さんは「食」への関心がとても高い。これまで、まったく食事に気を使っていなかった人でも、さすがにがんを患ったら食にも注意を払うようになるものです。それにもかかわらず、医師は患者さんの「食」に対してあまりに無関心でいる場合が多い。本来、アドバイスすべき立場にある医師が、です。医師は数多くの患者さんを相手にし、患者さんの「痛い」「苦しい」といった眼前の問題を解決することで精いっぱい、という現状もあるでしょう。さらに、採算が取れないという問題もあります。大学病院のなかで、糖尿病患者さんのために食事指導を行っているところもあるでしょう。食事指導だけでいえば、病院側の収入は、ひとり1000円程度が相場です。実際、指導する場所代や人件費を考えたら、とても採算が取れません。そこで、ひとり1000円で100人集めて食事指導のための教室を行い、なんとか採算を取る。あとからご紹介しますが、食事指導というのは個人個人のライフスタイルに合ったものを提案しないと、患者さんはなかなか長つづきしない。結婚しているか未婚なのか、家族構成や食の好みなどライフスタイルは千差万別です。100人まとめてひとつの食事指導したところで、実際あまり意味がないのです。こうした理由から、病院でまともな食事指導を受けることは、残念ながら難しいというのが現状です。そこで、患者さんはみずから情報を仕入れることになります。ところが、そこで間違った知識を得てしまい、健康に気を使っているつもりでも逆効果になっているという場合が多い。そうならないためにも、「食」についての正しい知識を、まずはご自身が身につけてほしいと思うのです。 -
誰もが実践すべき「共通の原則」
わたしが食事指導をするときは、個別に患者さんと面談を行います。まず最初に、患者さんに聞くのが「ここ3日間、どのような食事をしましたか」という質問。それによって、その人のふだんの食生活が見えてきます。さらに、その人が専業主婦なのか、仕事をしているのか。家族構成や食事の好みまで聞いたうえで、ひとりひとりにふさわしい食事指導をします。その際、大切なことは、その人に合った「現実的」なアドバイスをするという姿勢。仕事で忙しく、食事をつくる時間のない女性に対して「朝昼晩、きちんとおかずをつくりましょう」などといっても、とうてい不可能です。また家族がいる人は、できるだけ家族とおなじ食事ができるような提案をする。家族のなかでひとりだけ別メニューにするというのは、なかなかたいへんです。あくまでも、その人のライフスタイルに合った提案をする。そうでないと、長つづきしないからです。人の数だけライフスタイルもさまざまですから、本書でひとりひとりの例を取り上げることはできません。なので、ここでは誰もが実践すべき「共通の原則」をご紹介しましょう。これからご紹介することを実践できれば、どんなライフスタイル、どんな家族構成の人でも理想の食事ができるはず。あとは個々の状況に合わせて、無理のない程度に工夫すればいいのです。