目次
- ○相手の貴重な時間に配慮できてこそ「大人」
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相手の貴重な時間に配慮できてこそ「大人」
たどたどしい話し方や稚拙なしゃべり方をする人の多くは、言葉を知らないというよりも、自分が何を話したいのか、話す前の整理ができていない傾向があるようです。ぶっつけ本番で考えながら話すのでは、言葉に詰まったり、話題が飛んだり、話が長引いたりするのは当然で、これらはビジネスの現場で特に敬遠されます。忙しいビジネスの現場でダラダラ話すのは、単に仕事の効率を下げるだけでなく、相手へのマナー違反とも言えます。「自分の大切な時間を奪う失礼な相手」の話に快く耳を傾ける気にはなれません。「要領よく話せない人」という烙印を押されると、普段のコミュニケーションにまで支障が生じる可能性もあります。忙しいビジネスパーソンが相手なら、最も重要なポイントを真っ先に伝えましょう。最も重要なポイントとは、相手が一番知りたがっていることです。「結論から先に言え!」という言葉は、何について話そうとしているのか早く知りたいのに待たされていると感じたときに、怒りとともに発せられます。たとえば、「新規の注文が取れそうなのだけれど、問題があって上司に相談をしたい」というシチュエーション。開口一番「部長! A社で受注できそうです」と告げれば、上司はどんなに忙しくても手を止めて話を聞いてくれるはずです。上司「やったね。で、何か問題でもあるの?」
部下「 はい、先月終了した特別キャンペーンの価格を持ち出して、今回だけ同じ値引率を適用してほしいと言われて困っています」
上司「そうか、それをやるとキリがなくなるしなぁ」
部下「 私もそう思って即答は避けました。ただ、値引きするなら今月中の納品を確約されましたし、各支店でも購入していきたいとお考えのようです」
上司「A社は全国に支店があったよね」
部下「15店です。今後の展開を考えると値引きしても十分、利益は確保できます」
上司「 わかった。すぐ稟議書を作成しなさい。私が責任をもってプッシュしよう」
相手の興味や関心を引き出す話し方をすれば、自分ひとりで話そうとしなくても、自然に会話は展開していくものです。ところが、次のようなアプローチだと、どうなるでしょう。部下「 部長、お忙しいところ申し訳ありませんが、少しお時間をいただけませんか」
上司「何? 急ぎ?」
部下「急ぎというほどではありませんが、ご相談がありまして……」
上司「 悪いけど、急ぎでないなら後にしてもらえるかなぁ。これから会議なんだよ」
部下「わかりました、すみません……」
上司の頭にはさまざまな疑問が浮かび、直ちに相談に応じるべきか、迷いが生じます―「『少し』とは何分くらいなのか?」「何に関する『ご相談』なのか?」「『急ぎでない』なら、いつでもいいのか?」……。このような疑問の余地がないように、相手に伝わる言葉を選んで話すことがビジネスの現場では重要です。無尽蔵の時間があるかのように思える子供と違い、大人にとって時間は非常に貴重なものだと認識しなくてはなりません。相手の貴重な時間に配慮できてこそ「大人」と言えます。
「大人ことば」で穏やかに話す
序 大人の言葉づかいが必要とされる時代より
企業や社会のコミュニティで、組織の一員として、自分と相手だけでなく、周りのすべての人たちと良い関係を築き、みんなが機嫌よく関わり合う―1万人の社会人を対象に研修や講演をおこなってきた人気講師にして、表千家教授者でもある著者が、日本の伝統文化を踏まえて指南する、穏やかな「大人の関係」の築き方。