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部下を持つ人の最も重要な仕事とは

上司の仕事、と聞くとどのような印象があるでしょうか。多くの仕事を統括・指揮する印象が強いと思いますが、会社は本来「仲間」なのだそうです。では、どんな上司が「仲間」であれば、理想的なのでしょうか。上司として最も大切な仕事を、生物学者の著書でチェックしてみましょう。

長沼毅(理学博士)

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目次

  1. ○生物学から見たマネジメント
  2. ○上司の仕事は部下を定時で帰すこと
     
    • 生物学から見たマネジメント

      会社であてがわれる役割分担は、必ずしも自然発生的ではないという話をしましたが、マネジメントの面からすれば、できるだけ自然に近づける努力が必要になります。
      私(長沼毅)は、現代の会社でも、自然発生的な役割分担ができたらそれが一番だと考えています。しかしその個々の役割は、「営業部」や「総務部」といった、既存のポジションの名前だけでは表現できません。
      たとえば、「働かないけど、なんだかこの人がいるとまとまる・・・・んです」という役割の人がいてもいい。「かわいくてニコニコしている」という人がいてもいい。その人が自然に振る舞っていることが一番重要です。
      「雑用係」というものがありますが、これだって立派な役割だと言えます。日本語では「雑用係」という酷い呼ばれ方をされていますが、私は「ユーティリティ的存在」と呼んでいます。どう扱っていいかわからないような仕事が、その人に集まる。こういう存在は、どの組織にも一人は必要だと思っています。
      私のゼミの学生にも、ユーティリティ的存在がいます。その学生は他の学生より年下だったり年上だったりしますが、たとえば研究室を訪れたお客様へのお茶出しなどといったシーンで、なぜか自然とその学生が使われやすくなっていきます。
      その学生が任されるのは、彼/彼女が得意な仕事だったり、あるいは、誰でもできる仕事だったりします。しかし、どんなときでも私はその学生に労働対価として報酬を渡すことを大事にしています。どんな仕事にも価値がある、役に立っているのだということを、それを通じて教えたいと思っているからです。
      じつは、大学では学生を使うことが当たり前だと思っている先生が多いものです。酷い人は生徒のことを「奴隷」と呼ぶことさえあります。私も10年ほど前には、学生をこき使っていました。しかし、ある日、学生にコピーを頼むと、実験で忙しいと断られました。そのときは「そんな簡単なこともできないのか」と学生に言おうとしてしまったのですが、ふと我に返って、「それなら自分でやれよ」と自虐的に思い、それ以来自分でコピーを取っています。
    • 上司の仕事は部下を定時で帰すこと

      マネージャーの仕事は何かと言えば、「社員が定時で帰れるような仕事の分配をすること」に尽きると思います。どこに何人、誰を配置すればそうなるのか、それを考えるのが上司の仕事で、逆に上司の仕事はそれ以外にはあまりありません。
      ただ、一口に人材配置といっても難しいのは、誰がどんな仕事に向いているのかを判断することです。本人に何が得意かと問うても、普通の人は脳で用意した「楽しいと思う仕事」を答えるかもしれません。本人に訊くとともに客観的に向き・不向きを見極めなければなりません。もし、それができる人がいたら若い人でも上司として登用すればいいでしょう。
      従来の年功序列だと、必ずしも「部長」や「課長」に向いていない人がマネージャーになってしまいます。そうではなく、「このメンツだったら彼が司令塔に向いていそうだな」というように、グループの個々の特性を見て上司に据えるのです。
      一方、年長者に対する長年働いてきたことに対する敬意は、上司というポジションではなくて給料(高給)で示せばいいでしょう。日本はポジションと給料が一致していることがほとんどですが、それらは分けて考えてよいのです。
      会社に指揮系統の上下関係はあっても、人間的な上下関係はありません。ただ、一緒に稼ぐ仲間がいるだけです。それを地で行っている経営者の一人に、JAL再建で知られる稲盛和夫さんがいます。
      以前、稲盛さんは「我が社の企業理念は全従業員を幸せにすることだ」と発言されていました。私(長沼毅)はそれを聞いたとき、会社は英語で「company = 仲間」だということを改めて思い起こしました。そう、カンパニーとは元々「仲間」なのです。
      この宣言は、社員の心に響いたはずです。本来、生物が自分事として認識できるのは、自分とその周辺の仲間までのことです。会社の朝礼で「我が社が日本のイノベーションを牽引する」なんて言っても、社員の肚はらの底までは響きません。こんな浅い言葉では脳の表層で止まってしまいます。
      我々の遺伝子には、愛情と暴力性という二つの相反する要素がありますが、一方が他方を抑えているように見えることがあります。その場にいる複数の個体がお互いを仲間だと思うか、敵だと思うかで、どちらが発揮されるかが決まります。
      チンパンジーの社会のように、暴力で地位が決まるような会社にすることもできます。他人を蹴落として這い上がった人間が評価を得る、地位を得る。またそのリーダーを追い落としたものが、次のトップになる。そういった仕組みで動いている会社も少なくありません。
      しかし、協調性を活かすマネジメントもあります。愛情を仲間に向けられる仕組みを作る。そういったことでも人のやる気は上がります。稲盛さんは、「この会社に集まった人は仲間です」と、そういう宣言をしたわけです。
      人のどちらの面を引き出すのかは、リーダー次第です。

考えすぎる脳楽をしたい遺伝子

長沼毅

クロスメディア・パブリッシング

第4章 群れの中で疲れずに働くより

現代人は、脳ばかりが暴走して、身体の限界を超えることをやってしまうバグを抱えているのです。本書では、「科学界のインディー・ジョーンズ」が、過酷な探検と研究のなかで見つけた、『ストレスなく、悩まずに生きる方法』を紹介します。

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