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糖質オフダイエットの危険性

近年「糖質オフ」というワードが健康やダイエットのキーワードとして市民権を得るようになりました。糖質すなわち炭水化物の摂取量を減らすことで太りにくくなるというものですが、これに対して京大名誉教授の森谷敏夫さんは警鐘を鳴らしています。ご自身も体脂肪率10%という肉体を誇る教授の著書から、糖質ダイエットが危険な理由をご紹介します。

森谷敏夫(京都大学名誉教授・運動医科学研究所所長)

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目次

  1. ○炭水化物、糖質はなぜ「悪者扱い」されるようになったのか
  2. ○糖質オフダイエットの落とし穴
     
    • 炭水化物、糖質はなぜ「悪者扱い」されるようになったのか

      日本人が「太りやすくなった理由」を考えてみましょう。
      まず、食事とその内容についてです。
      食事の中でも3大栄養素と言われるのは、

       ①炭水化物(糖質)

       ②タンパク質

       ③脂質

      の3つです。ビタミン、ミネラルを加え5大栄養素、食物繊維を加えて6大栄養素と言うときもありますが、人が生きていくうえでもっともたくさん必要なのが、この3大栄養素。炭水化物と糖質は、基本的には「同じ意味」と考えてかまいません。
      正確には、炭水化物は糖質と繊維質が含まれたものですが、カロリーがあるのは糖質だけです。つまり、「糖質」というのは砂糖が含まれた甘いものにだけ含まれているわけではないということです。ごはん、パンはもちろんジャガイモやかぼちゃなど多くの野菜や、ほとんどの果物にも含まれています。ごはん100グラム(子供用のごはん茶碗1ぜん)に含まれている糖質は約30グラム。これは砂糖に換算すると大さじ3杯より少し多いくらいの量にあたります。私たちは糖質の大部分を炭水化物の形で体に取り入れているのです。糖質は、いわば脳と体のガソリンになるもので、タンパク質は筋肉などを作る材料、脂質は脳にとってもビタミン類の運搬係としても活躍する必須の栄養素です。
      こうした栄養素から、生命の維持と日常の活動に必要なカロリーを摂取することによって、人間は元気よく暮らしていけるわけです。
      どれも欠かせないものですが、なかでも糖質は脳のエネルギーとして非常に重要な役割を持ちます。脳の唯一のエネルギーが糖質なのです。糖質がなければ脳はまったく働きません。食事に含まれる糖分が足りなければ、肝臓に貯蔵されたグリコーゲンを使い常に脳を働かせようとしています。
    • 糖質オフダイエットの落とし穴

      さて、昨今、糖質オフダイエットが大流行しています。「炭水化物」は今や「悪玉」扱いで、スーパーやコンビニに行けば「低糖質」「糖質ゼロ」「糖質控えめ」を謳う商品が我が物顔に並んでいます。
      ビール、発泡酒はもちろん最近では「糖質ゼロの日本酒」もあります。小麦粉を使わずふすまを使った糖質オフのパン、砂糖のかわりに人工甘味料を使ったスイーツと、今やどこもかしこも「糖質オフ」です。
      確かに、糖尿病の患者さんには、膵臓すいぞうの機能が落ちていますからある程度糖質を制限する食事療法も有効でしょう。
      しかし、多くの商品は糖尿病の治療をしている人ではなく、単に「ダイエットしたい人」をターゲットにしています。その結果、運動不足と食べ過ぎでちょっと太ったという人も、老若男女が「糖質オフ」をしたほうがいいような気分になっているようですが、これは非常に危険です。

       「炭水化物を食べると太りやすくなる」

      「タンパク質と脂肪はいくら食べても大丈夫」

      このふたつは大きな誤解です。
      そもそも、栄養学的に考えて、人間は1日の摂取カロリーのうち約6割は糖質から摂るべきだというのが常識です。
      人間の安静時のエネルギー代謝を測定すると、使われるのはほとんどが糖質です。1日の消費カロリーが2000キロカロリーの人の場合、体温を維持する、心臓を動かす、姿勢を維持するといったことだけで、約800キロカロリーの糖質が使われます。さらに、400キロカロリーが脳で消費されます。安静にしているだけでも、実に1200キロカロリーの糖質が消費されるということです。普通の人間は、全カロリーのうち6割分の糖質を摂る必要があるのに、なぜこれほど「糖質」は悪玉にされてしまったのでしょうか?
      それは、栄養学の専門家の考え方と、医師の考え方が根本的に違うためなのです。
      そもそも低糖質ダイエット、糖質制限ダイエットというのは、糖尿病患者の治療プログラムとして考えられたもので、医師の中でも懐疑的な意見、否定的な意見があります。
      糖尿病患者の増加は、先進国共通の問題です。厚生労働省の統計では、日本人の糖尿病患者は、1955年から2003年までに31.5倍に増加しており、2007年には40倍近くなっています。把握されている実数は2007年に890万人、予備軍を含めると1320万人、2013年は実数が950万人で、これは世界のワースト10です。
      中国も2030年には1億3000万人の患者数が予測されており、インドも患者数は1億人を超えると言われています。
      糖尿病が生活習慣の変化によって引き起こされる現代病であることは間違いありません。
      この人類の大問題である糖尿病の治療と予防は非常に重要な課題で、医師たちから出てきたのが「糖質制限」という考え方でした。つまり、大雑把に言えば「糖分の摂り過ぎで糖尿病になるのだから糖分を控えれば予防にも、治療にもなるにちがいない」ということです。けれど、ここに大きな欠陥があります。みなさんは宮澤賢治の『雨ニモマケズ』という詩をご存知かと思います。

       雨ニモマケズ

      風ニモマケズ

      雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ

      丈夫ナカラダヲモチ慾ハナク

      決シテ瞋ラズ

      イツモシヅカニワラッテヰル

      一日ニ玄米四合ト

      味噌ト少シノ野菜ヲタベ

      これが冒頭の一節です。
      宮澤賢治はこの詩を昭和6年ごろに書いています。
      「1日に玄米4合」とありますが、4合というのは、現代の感覚からすればかなりの量に思えます。茶碗大盛8杯に近い量ではないでしょうか。毎食、大盛2〜3杯のごはんを食べるということです。玄米は白米よりは繊維質などは多いですが、糖質、カロリーはほとんど変わりません。玄米4合はカロリー換算では2000キロカロリーを超えます。
      ちょっと多過ぎるのではないかと思われるかもしれませんが、宮澤賢治は実践的な農学者でもありました。農民と同じように多くの農作業をこなし多くのカロリーを消費していたのですから、玄米4合というのは、賢治や周囲の農民たちの一般的な食事量と考えて間違いないでしょう。
      しかもこの時代、多くの日本人の食事の主食はコメがメインで、おかずは現代よりもずっと少なかったはずですから、炭水化物の摂取量は、おそらく摂取カロリーの6割よりもずっと高かったと考えられます。しかし、昭和6年の東北の農村で、農民たちがみな太っていた、などという記録はまったくありません。

      玄米4合

結局、炭水化物を食べればしっかりやせる!

森谷敏夫

日本文芸社

なぜ太るのか?なぜやせるのか?「体重が減ること」と「脂肪が減ること」の違いは?脂肪が燃焼するって、どういう意味?「理屈」がわかれば、ダイエットは難しくない!糖質オフで減るのは水分で、脂肪は減らない。体脂肪率10%の京都大学名誉教授が明かす、やせる法則。

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